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バーンスタインとカラヤン

「のだめカンタービレ」の主題曲だった「ベト7」ことベートーヴェンの交響曲第7番。
山本直純が著書『オーケストラがやってくる』の中で
「ベートーヴェンが、この曲にタイトルをつけてくれていたら・・・」と嘆いていた。

標題好きの日本人には
『運命』『田園』『悲愴』『新世界』などは売れるけど、
標題のない『ベト7』や『ブラ1』は、
CDや演奏会のチケットが売れにくいのだ。

『ベト7』は、覚えやすいメロディにあふれた名曲だ。
「のだめカンタービレ」の再放送を見ていて、無性に聞きたくなってしまった。聴き始めると、いつもの悪い趣味で、聴き比べをしたくなった。

まずバーンスタイン(左側)をかけてみた。
最初、聴き始めた瞬間に奥さんは、
「これは違う」と拒否した。
聴きなれた「ベト7」とは全く異なった印象だったからだ。
しかし少し進むと、彼女は、この演奏にすっかり心を奪われてしまった。
春の若葉のような暖かく淡い色彩感。
ピンクや若草色に彩られた可愛い景色が浮かぶ。
そんな「ベト7」は初めてだった。
思わず頬が弛む、笑顔になれる演奏だった。


次にカラヤン(右側)をかけてみた。
出始しは良かった。
バーンスタインのが「違う」という感じだったので、奥さんも
「これこれ。これが『ベト7』よ。」
と上機嫌で座って聴き始めた。

しかし5分と持たなかった。
彼女は用事を思い出し、食器洗いや洗濯物の取り入れに戻ってしまった。


バーンスタインが流れていると手を止めて聴き入っている彼女は、
カラヤンの演奏だと無意識に聴き流してしまう。
私自身も、
バーンスタインの演奏を聞いていると、
いろいろな色彩や映像が見えるのに、
カラヤンの演奏だと、
演奏しているオーケストラの映像しか頭に浮かんでこない。

確かに、楽譜を美しく再現することにかけては、
カラヤン以上の指揮者はいないかもしれない。

しかしバーンスタインの演奏を聴くと、一つ一つの楽器が、演奏者が、
のびのびと歌い上げている感じがするのだ。
「私はここにいるよ」とおとなしい楽器も、美しいメロディを奏でる。
「オレはこんな美しいメロディを歌ってるんだぜ」と、
普段は目立たない演奏者も胸を張って奏でる。
バーンスタインは、そんな楽器や演奏者に、
「もっと歌っていいんだよ。
 君は、こんなに素敵なんだよ」
と語りかけているような気がする。
時にバランスや全体の調和を崩す時もあるが、それでも、
一人一人が生き生きと歌い上げている事に感動するのだ。


私たちもこの世界で、社会の枠組みや規律に縛られ、周囲に合わせて窮屈に生きている。その中で、弱い者、周りと少し違う者は片隅に追いやられ、時には排除されてしまうこともある。
そんな世界を変えたい。
だれもが、自分の歌を思い切りのびのびと歌うことが許される世の中。
それが本当のノーマライゼーションだと思う。
自分の仕事も、そんな仕事になればいいと願っている。
バーンスタインが大好きなのは、
彼の音楽にそんな夢を重ねて見ているからなのかもしれない。

塚本 章人



日時 2016年04月29日 20:30 | 固定リンク | コメント (1)


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