編集長の毒吐録
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☆2020/5/29更新☆

【読書雑記640】『移民国家アメリカの歴史』 (貴堂嘉之、岩波新書、840円+税)。アメリカ合衆国は「移民の国」だ。この国がどのように形づくられたのか、いかにして形成されてどのように変わったのか。移民をグローバルな人の流れに位置づけ、さらに中国や日本などアジア系に着目して、合衆国の歴史を修正した書。トランプの下で揺れ動く〈いま〉を考えるためにも求められる視点だった。

序章/アメリカには、タテマエの顔と現実主義的で強欲な強面の顔の二つの顔がある//第一章/「移民国家アメリカ」の誕生、発展の歴史をたどる。人種の「るつぼ」に入れてもらえないアジア系移民の足跡を辿ると、「移民国家アメリカ」の現実が見えてくる//第三章/19世紀の中国人移民。南北戦争前は商品として、戦後は自由自発的移民だが、安い労働力と位置づけられた。在米中国人の政治力も増大した//第四章/法律による移民の選別。白人とアジア系との結婚禁止が典型的

第五章/日本人移民の歴史。第一次大戦で移民のアメリカ化は進むが、アジア系は対象外。国際連盟憲章での人種差別撤廃条項の明文化(日本提案)否決。「排日移民法」制定。日米開戦による強制収容。二世部隊の最前線へ動員と多くの戦死者//第五章/戦後。異人種間結婚禁止法の廃止。レーガン政権下の市民的自由法制定。アメリカ国家による日系人への謝罪と補償。

本書は「アメリカ移民の歴史」に留まらないで、「移民国家アメリカ」の歴史を問い直すアメリカ政治社会史にもなっている。従来の移民史を克服しようと試みた本であり、そのために、記述史に堕すことなく、歴史的事実の分析重点が置かれる。アメリカ社会史(民族や人種観、政策理解)としても参考になる。これまでの移民史を相対化し、世界史との連関で書くという問題意識が貫かれる。アメリカの通史としておもしろく読んだ。

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