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☆2020/6/5更新☆
【読書雑記642】『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての』(東畑開人、医学書院、2000円+税)。主人公(著者)は若い心理士、ようやく見つけた沖縄のデイケアの職場で、「トンちゃん」と命名され、上司からこう告げられた。「とりあえず座っといて」。トンちゃんは隣で新聞を読みふけっているおばさんに話しかけた。「あの・・、何を読んでいるのですか?」「新聞だけど」「・・なんか面白いことありますか」「別に。ただのスポーツ新聞だから」
著者は博士号をとった心理学博士、専門性は見事に砕け散った。しかしながら、甲子園に出場した興南高校をテレビで応援したり、朝夕ハイエースでメンバーさんを送迎したり、レクチャーの時間にトランプをすることによって、「ただ居るだけ」の価値を見出す。トンちゃんは、「居場所」「暇と退屈」「愛の労働」「事件」「遊び」「中動態」「会計」「資本主義」などの概念のさぐり考察する。
この探求の旅は、彼自身の一身上の変化とともに、意外な方向に発展する。なぜこの「善きケア」がときにブラック化していくのか、という問いが彼を衝き動かした。一般社会で居づらい人たちのためのアジール(避難所)が、なぜアサイラム(収容所)に転化するのか?
ケアという行為に原因があるのか?いったい何がケアを台無しにするのか?トンちゃんは血を吐きながら(文字通り、血を吐く)、じりじりと真犯人を追いつめていく。好著。
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