<<前のページ
☆2020/6/10更新☆
【読書雑記643】『天皇と軍隊の近代史』 (加藤陽子、勁草書房、2200円+税)。著者は、アジア太平洋戦争本質を天皇制にあると主張し、その軍隊の特徴と変容を考察して、軍が政策決定に与えた影響を説き明かす。論文集ではあるが読み出があった。好著。ちなみに、表紙の工夫が面白い。こんなのを手に取るとき、「本はいいなー」と書籍に寄せる「愛情」がいや増すのだ。
総論の「天皇と軍隊から考える近代史」では、上海事変の意義を満州事変から国際社会の目をそらすためという通説を見直す。青年将校が極左派に指導されていた当時の日本共産党と連携を図り、政党政治の存立基盤を危うくする。著者自らが<陰謀史観と見まがうような筆致>といいつつも、元老西園寺が陸軍極左が動かしているという観察を、的確だと仮定する。
西園寺はこうした観察の上で、昭和天皇が求めた戦争の芽を鎮静化させるための御前会議開催を「会議の決定に従わない軍人が出たら、天皇の権威が決定的に失われる」として反対する。西園寺は、国外紛争の悪化よりも、東久邇宮や伏見宮を推戴した内閣、秩父宮の内大臣就任による天皇親政という名の元による昭和天皇の無力化の方が悪夢だった、と判断した、と著者は言う。
最後の章である「日本軍の武装解除についての一考察」で、<あれほど自主的武装解除を主張していた陸軍が、なぜ米軍による武装解除・復員へと急速に梶を切ったのか、その理由について考察した>としているが、これは興味深いテーマだが・・。感じたのは、「統帥権の独立」=諸悪の根源ではなく、天皇機関説事件などを経て、帝国憲法の解釈が歪められた結果ともいえるということだ。いま進もうとしている、「解釈改憲」の危険を改めて感じた。
|