編集長の毒吐録
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☆2020/6/26更新☆

【読書雑記648】『姉・米原万里』 (井上ユリ、文春文庫、700円+税)。著者は料理研究家、作家で通訳者でもあった米原万里の妹であり、創作者・井上ひさしの妻でもある人。<姉には、人と話している最中でも、ふっと自分の世界に入り込んでしまう癖があり、生涯直らなかった。家族の前ならともかく、これを外でやったら感じ悪いだろうなあ、と心配だったし、この時間万里はどこへ出かけているのだろう、と気にもなった。想像の世界で遊んでいるのか、ときおり微笑んだりもする>。面白かった。

米原万里の“豪傑”ぶりは有名だが著者もすごい。北大→理科の教師→調理学校→調理学校事務員→イタリア留学→料理教室→井上ひさしと結婚・・。この姉にしてこの妹あり。これまで知られていない米原万里の家族や姉妹のことがよくわかる。チェコ・スロバキアで5年間暮らしたのち、帰国子女として日本での生活に悩む様子が書いてあり、<ちょっと特殊な体験>を共有したことで、姉妹には二人の間でのみ通じることがらが沢山あったようだ。

 父は共産党の幹部。母親も超論理的。水は低い方に流れるというが、どちらに流れても彼女らは記述された通りの人間だった。鳥取の山林地主の下に生まれ筋金入りの共産党員となり、戦争中は地下活動も辞さなかった父。勉強好きで批判精神の旺盛だった母。その母をして「トットちゃんより変わっていた」という万里の幼少期や、後年の大胆な発言やふるまいとは異なる、少々臆病な少女時代・・。

数々の食べものを通して、米原家のユニークな面々を描き出す上出来のエッセイとなっている。万里は、2006年に56歳で世を去ってのだが、人気は今も衰えない。評者も、刊行された著作の全てを読んだ一人だが・・。プラハのソビエト学校で少女時代を共に過ごし、その闘病をも看取った3歳下の妹であるユリの筆で、食べものの記憶を通した姉の思い出が綴られる。

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