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☆2020/7/1更新☆
≪悼辞―前を歩いた12人 ❼「スクリーンのない映画館」で独自の世界を開く≫ パントマイム芸人、俳優、ヴォードヴィリアン、劇作家として紹介されることの多いマルセ太郎(1933年〜2001。金原正周〈きんばらまさのり〉、金均洚〈キム・キュンホン〉)は、在日朝鮮人二世として大阪市の猪飼野(いかいの)で生まれた。
映画『天井桟敷の人々』を見てパントマイムを知り、マルセル・マルソーの舞台に刺激を受けた。芸名はマルセル・マルソーにちなんだ。マルセを高く評価した落語家の立川談志は、酒場でのマルセの独演会に現れ、観客の前で、「テレビでタモリ、たけしを見るのを、これ文明と申します。今夜、これから出てくるマルセ太郎を生で観るのを、文化といいます。みなさん、文化を楽しんでください。どうぞ」と言ったという。
「スクリーンのない映画館」のメインは映画『泥の河』(小栗康平/監督、宮本輝/原作)で、映画よりリアルと言われた。さらに、『花咲く家の物語』『春雷』『イカイノ物語』などの脚本を書き、「マルセ喜劇」として好評を博した。生老病死に関するテーマを、深く、しかもあくまでも喜劇として描くタッチは、マルセ一流の人間観察と人間愛に裏付けられたものだった。
なかでも、金沢に実在した知的障害者らのグループホームを、喜劇として描いた『花咲く家の物語』は、劇作家としてのマルセの傑作だった。
僕らは、清水寺円通殿、建物地下、古民家、マンションの一室、学校、ホールなどで公演を持ち、僕の市長選挙時にはマイクを握ってくれた。公演でも演説でも、人を感動させる術(すべ)は超一流だった。
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