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☆2020/7/17更新☆
【読書雑記654】『井上ひさしの読書眼鏡』 (中公文庫、井上ひさし、600円+税)。4年にわたり『読売新聞』読書面に連載されたコラム「井上ひさしの読書眼鏡」34編をまとめ、藤沢周平、米原万里の本を論じる。著者の遺稿となった書評集。松山巖が解説を書いている。本の選定が、如何にもひさしらしい。ひさしは日本語と日本人を愛した(好んだ)と、本を読みながら改めて思った。
ひさしらしい選定、ちょっとやそっとでは読めない本もある。彼の視点の一つの特徴である戦争被害者、加害者、そして戦犯裁判の意味を深くとらえた姿勢が抜群だ。乃木大将より、伊能忠敬が上だという辞書の活字数で評価(活字数で比べるとは!?)するとは!! 林芙美子、松本清張、藤沢周平について、知らなかった側面(僕だけかもしれないが・・)をえぐり出す手法も鮮やか。
米原万里の全著作の評は、米原万里ファンである僕にとっても抜群(何を隠そう(隠さなくてもいいではないかの声も)、僕は彼女の全著作を読んでいる(君の勝手!!))。
誰もが(僕もその一人)名前を知りながら、読んだと言う人はほとんどいない大江健三郎の小説「「自分の木」の下で」「取り替え子(チェンジング)」「憂い顔の童子」。「研究社シェイクスピア辞典」「日本史事典」などの専門的(マニアック?)な辞典・事典の数々。細川護貞「情報天皇に達せず」、五百旛頭(いおきべ)真「戦争・占領・講和」、ハーバート・ビックス「昭和天皇」などという戦争・敗戦・天皇などに関わるもの。
大野晋「日本語の教室」、山本麻子「ことばを鍛えるイギリスの学校」などの言語についての作品。小熊英二「<民主>と<愛国>」などの若手による戦争・現代史もの。本について、ひさしの筆は鋭い。書物の特徴をつかむ“読む力”、巧みな切り出し、作者や作品の深い能力、“対話力”に脱帽する書評の数々に脱帽!!
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