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☆2020/7/28更新☆
【読書雑記657】『ハリエット・タブマン 彼女の言葉でたどる生涯』 (篠森ゆりこ、法政大学出版局、2800円+税)。ハリエット・タブマン(「黒人のモーセ」と呼ばれた)は、19世紀のアメリカで多くの奴隷を南部から救い出した。本書は、その人の伝記。彼女は、逃亡奴隷を救い出す秘密組織「地下鉄道」の「車掌」であり、南北戦争時は北軍のスパイとして活動し、女性参政権運動にのめり込んだ。連帯の力を信じ自由を求めて闘い続けた、女性の姿を描く。
1850年に成立した逃亡奴隷法は、奴隷制をめぐる合州国の対立を先鋭化させた。自由を求めて北部に逃亡した奴隷を捕え、奴隷主に戻すという連邦保安官の権限を強化したこの法律は、合州国の分裂を阻止するための妥協が黒人奴隷の自由と引き換えだったことを明らかにする。彼女はこの時代、「地下鉄道」といわれた逃走ルートを使って70人以上の奴隷をカナダへ導いたという。
タブマンは。メリーランド州に奴隷として生まれた。彼女は、1849年、奥地への転売を逃れるために両親や夫を残し、一人北部に逃亡した。その後、懸賞金をかけられながらも「地下鉄道」の「車掌」として、奴隷の逃亡を手助けする。南北戦争時、彼女は北軍と一緒に行動し、南部での土地勘や「地下鉄道」で培った人的つながりを生かして傷病兵の看護や軍事作戦の手引きをした。カンビー川沿いの南軍の要塞を破壊し、750人もの奴隷を解放した作戦は彼女あってのものだった。戦後はニューヨーク州で貧しい黒人のホーム建設に尽力し、支援者に囲まれながら「極貧」の生涯を閉じた。好著。
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