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☆2020/7/31更新☆
【読書雑記558】『国境27度線 (南島叢書98)』 (原井一郎・ 斉藤日出治・ 酒井卯、海風社、1800円+税)。奄美群島の日本復帰は1953年、沖縄復帰は72 年。奄美の日本復帰という歴史的事件の証言者たちが重い口を開く。群島の南端にある与論島と沖縄本島との間の北緯27度線に「国境」があった。
戦後、奄美群島と沖縄は占領軍の統治下におかれたが、奄美は反米闘争もあって53年12月に日本復帰を果たした。本書は、「国境27 度線」を描くまれなる本。
年月を経て、歴史の証言者がようやく口を開いた。奄美・沖縄の復帰運動の真実をさらけ出した1冊、2018 年に『南海日日新聞』に連載されたもの。著者の一人、原井一郎は四国の生まれだが、母親の故郷である奄美に復帰間もない頃に移住した。現在も奄美史に関する執筆活動に取り組んでいる。
本書は奄美の復帰運動を新たな視点から追求しており、執筆の動機を原井は、「なぜ奄美は同胞(沖縄と小笠原)を路頭に捨て、自らのみ命を繋(つな)ごうとしたのか」、奄美の復帰は「誰々の犠牲の上に成り立ったものなのか」、また新たな国境となった27度線の歴史的意味を追求する事にあったと言う。
第一章では「日の丸」を題材に奄美と沖縄の復帰運動の特徴を論じ、第二章では冷戦下の奄美・沖縄をめぐる返還派と占領継続派の確執を語る。第三章では戦後の沖縄と奄美の教育事情を考察し、第四章では沖縄の米軍基地拡充に伴う奄美人の流入、奄美の日本復帰が実現した事に対する沖縄からの奄美人排除の動きを描く。復帰後の奄美は選挙合戦のくり返しと奄振事業が産んだ土建政治に行き着いた。第五章で沖縄は「奄振の不備を冷静に学び取り、国の財政支援をより有効なものに変え」「今やハワイ観光に迫る」一大産業をつくり出したと分析している。原井は、沖縄と奄美の復帰運動は「二度と戦争のない、平和憲法下への復帰を目指してきた」主張する。
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