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☆2020/8/21更新☆
【読書雑記664】『四捨五入殺人事件』 (中公文庫、井上ひさし、 700円+税)。東北地方の山深い温泉町(「成郷(なるごう)市」の外れ、「鬼哭(おになき)温泉」にある古びた温泉宿「高屋旅館」が舞台)に講演に招かれた作家が二人。大雨の中をようやく宿に着く。ところが、町へ入ったとたんに外部に連絡している橋が大水で流される。宿に閉じ込められてしまう二人、そこで殺人事件が起こる!傑作をものしてきた著者が、ミステリーでもその腕の冴えを発揮する。手に汗握る(陳腐な表現。書評子の語彙不足!)本格的なミステリー、面白い。
町全体が出入りが不能な状態、いわば「密室」で殺人事件が起きる。連絡もできない閉じられた状態で次々と事件が起こる。いうところの「嵐の孤島」「嵐の山荘」と呼ばれる、オーソドックスなタイプのミステリーだが・・。才気煥発な著者のこと、一筋縄ではいかないような仕掛けが用意されていて、読者を驚かせ堪能させてくれる。
国の農業対策の、そのいい加減さや不備な点について述べており、ミステリーを楽しみながら、社会問題も「学習」が出来る。「四捨五入」というタイトルは作者が弱者に向ける眼差しを意味しており、権力に対する「反骨」も意味している。鬼哭地区は、「鬼哭川」と「高塔山(たかとうさん)」に囲まれた細長い土地で、大半が田んぼとして利用されている。昔、領主の厳しい年貢の取り立てに困った百姓が、隠田として開拓した。舞台となる「高屋旅館」は明治35年に建てられ、材料に杉の心材が使われた立派な建物。この「蘊蓄」も面白い。
Smart Renewal History by The Room
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