編集長の毒吐録
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☆2020/7/10更新☆

【読書雑記652】『十二人の手紙』 (井上ひさし、中公文庫、705円+税)。手紙(なら、と言っても良いかもしれないが・・)が表現する笑いと哀しみ・ペーソスが一杯の人生ドラマが、手紙や報告書のやり取りで構成される短編集。キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送るそれなどひさしファンにはたまらない。ひさしは作家、劇作家として著名だが、これにはいずれもミステリーの要素があり、推理小説ファンも充分に楽しめる。好著。

プロローグとエピローグを含む14の書簡体の短編で構成されている。ミステリーの要素を持ち、意外なオチが用意されている。それが狙いではなく、作者らしい人情味と軽妙さに溢れ、何よりも、ひさし作品らしく丹念で練った創りが光る。

冒頭の「葬送歌」は出だしが軽妙。「赤い手」で、出生届や請願書といった無機質な手紙によって、ひとりの薄幸な女性の生涯を描き出す。ヒロインのキリスト教への帰依が救い。「第三十番善楽寺」は、身体障害者のプライドと運命の縁を描いた佳作。作者自身の養護施設体験を基にしているらしい「桃」は、人間のエゴと慈悲とを対比させた味わい深い秀作。「玉の輿」は、奇想天外な傑作。「泥と雪」の構成も巧み。「里親」には「葬送歌」で登場した作家が再登場するのだが・・。エピローグで全収録作品を繋ぎ合わせる。

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