葦(よし)の髄から
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☆06/03更新☆

第20回 日勤教育を強いた職制労組員
 電車脱線事故で656人を死傷させたJR西日本には4つの労働組合がある。最大はJR西労組(JR連合傘下、2万7千人)で、あとは少数組合のJR西労(JR総連傘下、1200人)、国労(3000人)、建交労(全日本建設交通一般労組、100人)だ。
 
 新聞報道によると、社員に屈辱的な罵声を浴びせたり、草むしり、何回もの作文書きをさせるなど、今回の事故の原因につながったとされる「日勤教育」への世論の批判が高まる中で、JR当局も見直すことを示唆したのに対し、西労組がしぶったという。
 
 最近になって同意することをきめたようだが、労働者の誇りや尊厳を傷つけるような管理のあり方を改めることに肝心の労働組合が消極的とは、なんとも不可解、面妖な話ではないかと思っていたのだが、そのあたりのことは新聞でも明かしてくれない。

  「週刊金曜日」(5月27日付558号)が「マスコミが報じない‘‘腐敗の構造‘‘」という特集でその裏の事情を告発している。
 
 労使協調路線の西労組には組合加入資格のある職制が入って、旧国鉄時代の「労使対立」の構図がJR西日本になって、「労労対立」の様相になった。オーバーランや出勤時間にちょっとでも遅れた社員に日勤教育を命じるのは非組合員の現場長だが、実際に日勤教育を担当するのは、なんと組合員でもある職制だという。
 
 係長のポストにはJR西労など少数派組合の加入者は一人もいない。係長になりたければ、「組合をかわれ」と迫られる。その職制が西労組の組合員なら、組合活動の範囲内とされ、不当労働行為には問われない。詳しいことが知りたいなら、ぜひ週刊金曜日を読んでください。

 「国鉄民営化は国労つぶしが目的の一つだった」と民営化を推進した当時の首相・中曽根康弘氏が後日明らかにしている。実際に国労はずたずたにされ、往時の面影はない。それが総評解体にもつながった。

 そして、圧倒的多数の組合員をかかえる西労組は労使協調路線を歩む。JRの経営側は、職場での労労対立を利用して職場管理を強める。

 「かせげ」を第一の目標に掲げ、安全対策を犠牲にしてまで金儲け主義に走ったのがJR西日本であった。

 今回の事故現場が急カーブで危険なことを運転士たちは知っていたが、自由にものがいえない職場では沈黙せざるを得なかったのだ。JR西日本はこの急カーブに新型の自動列車停止装置を設置することを怠り、逆にスピード化で私鉄との競争に勝利してことを誇った。

 労組を変質させ、儲け第一主義の路線を敷いたのが、国鉄民営化推進3人男の一人、井出正敬氏だった。社長、会長の階段を上り詰め、いまも取締役相談役のポストに座り、院政をしく。

 関西財界でその経営手腕がもてはやされ、マスコミの評価も高かった。今回の事故で責任をとってすべてから退くと見られていたのに、「遺族らへの対応の区切りがつくまで」として、顧問というポストをつくって残るという。

 経営者としての社会的責任、人間として最低のモラル、そして美学を彼にみることはできない。
筆者紹介
落合健二
元朝日新聞記者。朝日新聞労組で役員などを務める。自称「社会党左派」。琵琶湖岸に居を構え、土と格闘している。
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