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ブレア首相といえば初めて育児休暇を取って世界を驚かせた宰相だが、その彼は97年にもう一つ大きな決断を下している。
主要先進国の中では最低レベルだった医療費予算を、他のヨーロッパ諸国並みに引き上げるというもので、この決断によってイギリスはその最低の地位を日本に明け渡すことになる。
国民の生命と健康を守るのにどれだけのコストをかけるかは、”ブレアの挑戦”にとどまらない世界的な課題である。
この医療費問題に取り組むアメリカ医療が、どんな問題を抱えてのた打ち回っているのか、医師である著者の本書が鋭くえぐっていて、新鮮である。
この本は前著『市場原理に揺れるアメリカの医療』(1998年10月、医学書院)と対をなす。
相つぐ医療過誤、そしてその医療過誤で自らの母親を死なせてしまった肉親としての苦悩を乗り越えて、医療過誤を防止する視点の確立、”市場原理万能”で医療がよいのかを実際に医療にかかわる医師の目で抉り出している力作である。
著者は1980年に京大医学部を卒業し、奈良の天理よろづ相談所病院で研修を行ったという経歴をもつ。昨年の大阪での講演会で彼が述べた「日本の医師たちはもっと理論武装すべきです」というエールが私には印象深い。
医療費をいかに抑えるかを至上命題に「改革」を進めてきた日本政府の医療政策は、アメリカのシステム導入に躍起である。
多くの政党や財界、健保連、連合の「医療改革」の主張もこのアメリカ医療改革の二番煎じが多い。
この大合唱の中で、アメリカ医療の影の部分を描く著者の声に、日本の医療人への限り無い連帯と変革への期待を感じ、読んでいて身の引き緊まる思いがした。
(津田 光夫・医師) |
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アメリカ医療の光と影 医療過誤防止からマネジドケアまで 李 啓充著 医学書院 2000年10月発行 本体2,000円 |
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